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大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)103号 決定 1954年12月15日

抗告人 糖塚宏 糖塚初子

訴訟代理人 沢村英雄

主文

原審判を取消す。

抗告人等の氏「糖塚」を「糠塚」と変更することを許可する。

理由

本件抗告理由は末尾添付の別紙に記載のとおりでこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

本件記録中の戸籍謄本によると抗告人両名は昭和十七年十月八日婿養子婚姻をした者であること明かであり、抗告人等が疎明として提出した第一ないし第十五号証、原審における抗告人糖塚初子本人の審尋の結果、原審及び当審における抗告人糖塚宏本人の審尋の結果によると、抗告人方は古くから「ぬかづか」と呼ばれ又抗告人等居住の肩書地の小字も「ぬかづかかいと」と称されていて、右居住地方では抗告人等を「とうづか」と呼ぶ者がなく、抗告人糖塚宏の勤務先である国有鉄道天王寺鉄道管理局等においても親交ある者は「ぬかづか」と呼び、わずかに右呼称を知らない者が「とうづか」と呼ぶにすぎず、又信書、証書、貯金通帳には古くから抗告人等の氏を「糠塚」と書き、抗告人糠塚宏に対する固定資産税、村民税の徴収令書の宛名にも「糠塚」と記載されただ官庁等に対する届書、学校或は勤務先における書類には戸籍記載のとおり「糖塚」と記載してあるがそれに使用する抗告人等の印章は「糠塚」となつてをり、遅くとも明治四十二年抗告人初子の祖父糖塚安松が土地所有権保存登記を申請した際には「糖塚安松」名下に「糠塚安松」なる印章を使用していたことを認めることができ、かように「糖塚」なる氏を称する者がその居住地方では古くから専ら「ぬかづか」と呼称され且つ永年に亘り一般には「糠塚」なる文字を用いてその氏を表わし、他方官庁、学校、勤務先等の書類には「糖塚」と書き、しかも右呼称を知らない者から「とうづか」と呼ばれていることは社会生活をなす上に甚だ不便であつて種々なる支障を来たすこと明らかである。かかる場合には「糖塚」という氏を「糠塚」と変更するについて戸籍法第百七条第一項にいうやむを得ない事由があるということができる、もつとも「糠」は人名用漢字別表にない文字であつてかような文字は改氏の際においてもできるだけ避けるのが戸籍法の精神に副うものであるが(同法第五十条参照)「糠」なる文字は必しも難読という程のものではないから、前段のような事実関係の下においては、これだけのことで、氏を変更するについてやむを得ない事由がないとすべきではない。以上の理由によつて抗告人等の本件氏変更はこれを許可すべきものである。原審判はこれと反対の見解をとり抗告人等の本件申立を却下したのであるから本件即時抗告は理由があり、且つ当裁判所はみずから審判に代わる裁判をするを相当と認め特別家事審判規則第一条家事審判規則第十九条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 大野美稲 判事 熊野啓五郎 判事 村上喜夫)

抗告の理由

抗告人等の氏は戸籍簿上「糖塚」となつているが、その土地に於ては「糖塚」と書いて実際の呼称は「ぬかずか」即ち糠塚と呼ばれている土地であつて、その他抗告人等の先々代より糠塚の文字を使用し、又抗告人等に対する徴税令書にも糠塚として送附して来る次第で公私共に数拾年に亘り糠塚の文字を使用して「ぬかずか」と呼ばれて来ているのである、即ち戸籍簿の記載のみが糖塚となつているのみで現実に数十年に亘り糠塚即ちぬかずかとして使用して来ているのである。従つて抗告人等の現実と戸籍上の文字の符合しないので極めて不可解なこととなつているのである。改氏は濫りに許すべきでないことは明かであつて、之は改氏に依り種々の法律関係その他に悪影響を生ずるが為めである然るに本件の場合は却つて現実に反する戸籍簿の記載を現実と合致せしめることで上記の如き弊害なくする所以である。この戸籍簿記載は明治初年戸籍法の実施に伴い夫々氏の届出を為したる際に文盲なる抗告人等の先祖が「糠塚」と記載して届出ずべきところを過つて糖塚と記載したものであることが推認できる。以上の次第であるから之が改氏の許可を求めるため本件抗告に及んだ次第である。

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